こちらのページは「エスペラントってなに?」「なんで商標登録が問題なの?」という方に向けて説明をします。(所要時間5分)
1 エスペラント語ってなに?
1−1) エスペラント語とは
エスペラント語は1887年にポーランドで誕生した国際補助語です。当時ヨーロッパは相次ぐ戦火により疲弊していました。若き医師ザメンホフは「言語の壁がひとびとを分断し戦争を生む」と考え、人工言語「エスペラント (Esperanto)」を発明しました。Esperantoとは「希望する者」という意味です。
エスペラントは文法や発音が単純化されており習得が容易です。一度習得すれば、世界中あらゆる地域のエスペラント語話者―エスペランティストーと交流することができます。
日本の歴史上で有名なエスペランティストは文学界では二葉亭四迷や宮沢賢治、民俗学者の柳田國男、国連初代事務次長の新渡戸稲造、アナキストの大杉栄などがいます。
1―2) ブローニュ宣言ー「この言語は誰のものでもない」
1905年、第1回世界エスペラント大会がブローニュ=シュル=メールで開催されました。そこでザメンホフはエスペラントに関するすべての権利を手放し「エスペラントは誰のものでもない」「誰もがこの言語で、またこの言語について、あらゆる目的のために著作物を出版することができる」と宣言をしました。エスペラントがここまで普及したのは、ザメンホフ自身がその権利を手放してすべてのひとに開放したからなのです。
1―3) 豊かなエスペラント文化
誕生以来133年。実に多様なひとびと-ザメンホフの思想に共鳴したひと、海外の人々との交流を楽しみたいひと、言語政策や少数言語問題に関心があるひと、純粋に言語が好きなひと、エスペラントが登場するゲームや小説から入ったひと-がエスペラント語を習得し、国境を超えた独自の歴史と文化を紡いできました。
今日、エスペランティストは全世界で推定約100万人。全世界1万人以上が加入する世界エスペラント協会(UEA)は、月刊で『Esperanto』を発行しています。そのほかいくつもの世界組織、各国のエスペラント組織、ローカル組織があり、また青年組織、職能組織、大学サークルなど多次元的・重層的にグループが存在します。
今日にいたるまでに数えきれないほどのエスペラント語を用いた文学、出版・翻訳、音楽、歌劇、映像、ゲーム、ジャーナリズム、ラジオ放送などのさまざまな文化活動が展開されています。
時を重ね、国境を超えて培われたエスペラント・コミュニティ。エスペラント語はその架け橋であり支柱でした。
2 いま何が問題なの?
2−1) GO社の唱える「エスペラント・カルチャー」
今回出版された雑誌『エスペラント』は、このようなエスペラントの文化と歴史をすべて捨象しています。
編集長菅付雅信氏はこの雑誌に『エスペラント』と命名した理由について、坂本龍一氏のパフォーマンス「ESPERANTO」から刺激を受けてエスペラントを知り、そして「ザメンホフの精神を継承した」と言っています。
しかしGO社『エスペラント』では、エスペラント語や、エスペラント文化運動についてはほとんど触れられていません。編集長の自己紹介ページには以下のように書かれています。
「エスペラント。それはグローバルコミュニケーションと世界平和を目的として、ポーランド人言語学者ルドヴィコ・ラザロ・ザメンホフによって発明された補助言語であった」 (‘Esperanto’. It was an auxiliary language invented by Polish linguist Ludoviko Lazaro Zamenhof, intended for global communication and world peace.)
ここではエスペラント語が、過去形で語られています。
またグーテンベルクオーケストラ社は、雑誌発行と併せて「エスペラント・カルチャー・コミュニティ」というオンラインコミュニティを開設していますが、「英語のコミュニティ」であると明言しています。
エスペラント・カルチャー・コミュニティのウェブサイトにはこのように表記されています。
「エスペラントカルチャーコミュニティは、世界に向けて発信するための文化的教養、そして英語力を鍛え、国を問わず通用する編集、企画スキルを学べるコミュニティです」
「基本的に本コミュニティはすべて英語での運用を想定しています。英語での発信に慣れていない、という方もいるかもしれません。そのような方が自分の伝えたいことを少しでも伝えられるようになるよう、『編集のための英語添削教室』グループを設けます」
英語力を鍛える「エスペラントカルチャーコミュニティ」。
それはエスペラントを使用し愛するひとびとの思うそれとは、全くかけ離れていました。
2−2) 「誰のものでもない」がエスペラントの精神
このような状況にあってGO社が「エスペラントカルチャーマガジン」「ESPERANTO CULTURE MAGAZINE」を商標出願していることが明らかになりました。商願2020-136377
私たちは、GO社の唱えるエスペラント語抜きの「エスペラントカルチャー」に異議を唱えます。そしてその「エスペラントカルチャー」が、133年にわたりエスペランティストたちが大切に培ってきたエスペラント文化をおしのけて、排他的な商業権を得ることに反対します。