適切な不妊治療施設を選択するため日本産科婦人科学会に集積された治療実績データの開示を求めます
適切な不妊治療施設を選択するため日本産科婦人科学会に集積された治療実績データの開示を求めます
【施設選びがまさにギャンブルです!】
これまで自費診療で拡大してきた日本の不妊治療には治療のガイドラインがなく、施設によって治療法は実にさまざまです。また、施設を管理・監督する機関も存在しないため、施設による知識や技術の格差も深刻です。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といった、命にかかわるような副作用の有害事象も報告の義務がなく野放しにされています。
その上、治療実績など施設の情報は公正に開示されていません。仮に施設独自の方法で開示されていたとしてもそれが信用できるものかどうか私たちでは判断がつきません。
一方で、ネット上には目を引くように「妊娠率○%!」「40代でも諦めない」「(助成金内で賄える)特別価格」などといった、当事者の期待を過度に煽る広告が踊っています。信じられないことに、このような誇大ともとれる広告を不妊治療施設が打ち出していることも少なくありません。また当事者の不安につけ込むような、エビデンスに乏しい不妊治療ビジネスも横行しています。
2022年度より保険適用化される不妊治療ですが、実は治療に踏み出す方たちは公正な情報もなく非常に不透明な環境の中で、まさにギャンブルともいえるほど難しい施設選びを強いられています。
→ 【漫画】1分で分かる!治療実績の開示が必要な理由 〜結果も約束されない高額治療なのに情報がなさすぎる〜
【現状の情報公開ではミスリードしかねない】
2021年度より、「不妊に悩む方への特定治療支援事業拡充における情報公開」が開始され、医療機関情報の開示が徐々に始まりましたが、患者が透明性の高い情報公開のもとで医療機関を選択するには、現在の内容は十分でないばかりか、ミスリードを引き起こす可能性が危惧されています。
問題点
- 患者が最も知りたい治療実績、来院患者情報、治療方針についての提出が「任意」であること
- 治療実績の項目が不十分、かつ妊娠率を高く見せかける恣意的な余地を否定できないこと
また、これらの収集及び掲示は各自治体に一任され、その負担は大きい上、一元集約化された形での情報開示環境ではありません。さらに、各自治体のWebサイトの構造に依存することでその情報へスムーズにアクセスできるとは言いがたく、医療機関1件1件ごとにPDFによる掲示のため、検索性の観点からも非常に不親切な形式となっています。
この情報公開については現役の現場医師からも強く懸念する声が上がっています。
このように、
- 開示範囲の不十分さ
- 不十分な情報開示によるミスリード
- 医療施設側の集計、提出の負担
- 自治体側の収集、掲載の負担
- 非一元管理、アナログ管理によるアクセス性の低さ
など問題点は多く、一体誰に向けての情報公開なのか甚だ疑問です。
【日産婦に集積されている実績の開示を】
このように、今回の情報開示は非常に形式的で、十分なものであるとは言えません。では、新たに全ての情報を開示する仕組みをゼロから構築すればいいかと言いますと、もちろんそれは望ましいことですが、膨大な時間と労力を要すると思われます。
やはり情報開示は難しいのでしょうか?
いいえ。
毎年、日本産科婦人科学会は不妊治療の統計情報(ARTデータブック)発表のため、UMINという大学病院医療情報ネットワークを用い各不妊治療施設から治療実績を収集しています。
これらのデータを開示~活用すれば、合理的かつ早期に、最低限の施設の公正な治療実績の情報開示が実現されるはずです。
具体的には、不妊治療施設毎の
- 採卵総回数(回)
- 全胚凍結周期数(回)
- 移植総回数(回)
- 採卵あたり生産率(%)
- 移植あたり生産率(%)
- 治療患者数あたりの卒業患者数(%) etc
といった、日本産科婦人科学会が集めている全ての詳細な治療実績を、全年齢区分別で開示することを求めます。
そうすることにより、低AMHや卵巣年齢の高い患者を得意とする、卵巣反応が良い場合の高刺激のコントロールを得意とするなど、施設の特徴が表面化し、患者の施設選びに大きく貢献すると考えます。
日本産科婦人科学会は「そもそも開示を目的に収集していない」という理由で開示に肯定的ではないようですが、段階を踏み移行期間を設ければ十分可能な施策ではないでしょうか。
こうした要望は、日々不妊治療に携わる現場の医師からもあがっています。
→ 実績開示に関する 不妊治療現場の専門医からのご意見
不妊治療患者が公正に医療機関を選べるよう、私たちはこのUMINデータから算出された公正かつ詳細な治療実績の情報開示を要望します。
(例えば、アメリカではCDC、イギリスではHFEAという独立した公的監査機関が不妊治療施設ごとの体外受精治療実績 を管理・監視し、またその情報を詳細にオープンにしています。また、本邦におけるがんの生存率データの公開も参考になります → 補足資料はこちら)
【情報開示に関する誤解】
詳細な治療実績データを求める声を上げると、高齢患者や治療が難しい患者の受け入れを避けてしまう施設が出るのではないかという懸念や声がありますが、それらは誤解です。
Q. 高齢患者がはじかれるのではないか?
→年齢区分別に成績を出せばこの問題は生じないと考えます。また、たとえ開示情報を限定しても受け入れ拒否のリスクは生じるのではないでしょうか。
Q. 治療が難しい患者がはじかれるのではないか?
→どの症例の患者がこれに該当するのか定義(既往症や診断等)し、その区分を分割して開示することで解消可能だと考えます。また難治性の患者の受け入れ施設が明確化され患者側にもメリットがあると考えます。
他院で治療に難渋してきている患者が受け入れ拒否される懸念については、受診までの治療施設数や、採卵や移植回数の平均値を算出することで、回避できると考えます。
情報開示により、治療が限定的になりかねないデメリットより、患者が適切な情報にアクセスできない状況が改善されることのメリットがはるかに上回ると考えられます。
【納得した治療が受けられる環境へ】
現在Twitterでは公正な不妊治療施設の情報を求め #不妊治療施設の公正な成績開示を求めます タグも広まり、その声の大きさから一時日本のトレンド入りもしました。
私たちが欲しいのは「根拠を確認できない高い妊娠率」や「廉価だが非効率な治療への誘導」ではなく、自分に合った施設かどうか、信頼できる施設かどうか、そうした情報です。
WHOをはじめ各国で不妊症は「疾病」という扱いがなされています(※)。
日本においても、この医療に対し今一度当事者がおかれる環境について考え直す時ではないでしょうか。
不妊治療患者が適切な医療を受けられるよう、納得できる治療に可能な限り最短で辿り着くことができるよう、UMINに登録された施設ごとの実績データの開示を求めます。
この情報開示が当事者を取り巻く治療環境の改善に大きく寄与することは間違いありません。
(不妊治療は「時間」が重要であるにもかかわらず、結果的に長期・高年化させてしまう構造があります → 補足資料はこちら)
(※)WHO(国際疾病分類第11版)において、女性不妊はGA31、男性不妊はGB04のコードで疾病に分類
意思決定者(宛先)
- 厚生労働省
- 日本産科婦人科学会
- 日本医師会
- 生殖補助医療のあり方を考える議員連盟
- 不妊治療への支援拡充を目指す議員連盟