署名活動も大詰めです。
ここで、国やメーカー、世間一般の「香害の常識」は、本当なのかどうか、見ていきましょう。
<メーカー:安全性の確認された成分を使用している>?
香料成分に関しては、IFRA(国際香粧品香料協会)という業界団体の自主規制に基づいて使用しているのですが、アメリカの市民団体が情報公開を求めたところ、香料や調合に使用する約3000の化学物質の半数が、国連のGHSという化学品の分類では、危険や有害性のあるものだったことがわかっています。これで、安全性が確認されていると言えるのでしょうか。
合成洗剤や柔軟剤からは、900種程度の化学物質が検出されています。一つ一つの化学物質では、安全な量を製品に使用しているにしても、化学物質には複合作用や相乗作用というものがあります。幾つかの成分が合わさると、一つ一つは安全な量であっても、有害性が出ることがあるのです。このことは、厚生労働省「シックハウス(室気汚染)問題に関する検討会」の委員も務める研究者が明らかにしています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/toxpt/45.1/0/45.1_P-118/_article/-char/ja
メーカーの言う安全性に、複合影響を考慮した「製品としての安全性」が含まれているのかは疑問です。
そもそも、合成洗剤や柔軟剤の主成分である合成界面活性剤には、環境汚染物質を管理する日本のPRTR制度上の指定物質が多く使われており、多くは水生生物に有害な物質です。
また、GHSという、化学品の分類と表示に用いられる世界的に統一されたルールでは、製品の危険有害性の程度に応じ、「危険」「有害」などを注意喚起するために、すべての化学品にGHSマークの表示が努力義務となっています。大容量の製品である、業務用の合成洗剤、柔軟剤、除菌消臭スプレーなどのラベルには、このルールに基づき、「危険」の文字とGHSマークと呼ばれる絵表示があります。一般消費者向けの合成洗剤や柔軟剤などの製品には、法律が整備されておらず、このGHSマークの表示がないのですが、「危険」であることには変わりありません。
メーカーが、「安全性の確認されている成分を使っている」という言い分には無理があるのは明白です。
<国:香料成分による健康被害のメカニズムや健康被害の原因となる物質が特定されていない>?
これは、そもそも国が持ち出してきている言い分です。私たちは、健康被害の原因を香料成分に限定はしておらず、製品中の多くの化学物質が複合的に関係していると考えています。香料成分だけを問題視するように誘導するかのような、国の言い方自体が疑問です。
国民生活センターの「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」という報告書によると、2013年版では、柔軟剤からは、空気中に「香料原料や香料の溶剤等」が揮発していて、強い芳香のある柔軟剤の方が、空気中の揮発性有機化合物の濃度が上がることが示されています。また、2020年版では、「使用量を増やした場合には、揮発性有機化合物の総量が使用量に応じて多くなる可能性があります。これらの成分に強く反応してしまう人への配慮を忘れずに~(以下省略)」とあり、「揮発性有機化合物」が健康被害を招くことが書かれているのです。つまり、健康被害の原因は、香料に限定されたものではなく、溶剤等も含めた揮発性有機化合物ということがわかっているのです。
それを裏付けるように、厚生労働省「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の211ページには、このような記載があります。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000155147.pdf
Q12. アロマなどのにおいのきつい柔軟剤は子供に影響はないでしょうか?
A 柔軟剤などに含まれるにおい成分は、揮発性が高い化学物質です。また、香りが長く留まるように保留剤としてフタル酸エステル類が利用されることもあります。室内濃度が高くなるとシックハウス症候群の原因となる可能性がありますので、過度の使用は避け、換気不足にならないように注意してください。
*フタル酸エステル類というのは、シックハウス症候群の原因物質の一つで、安全のために、室内濃度指針値が定められている化学物質です。
健康被害の原因物質は、フタル酸エステル類だけではなく、香り成分を含め、様々な揮発性有機化合物であると思われますが、厚労省研究班のマニュアルで、このように、香害の健康被害のメカニズムの一端は示されているのです。
このように香害とシックハウス症候群には重なる部分が多く、症状が悪化していくと、化学物質過敏症を発症することも共通しています。
<世間:香害を感じる人は化学物質過敏症。化学物質過敏症の発症メカニズムは不明>?
この誤解は、世間一般の人だけでなく、国や一部の研究者の間までも広まっています。数年前までは、「香害を感じる人は化学物質過敏症であり、原因不明、発症メカニズム不明の化学物質過敏症には対応できない」と、国が言っていたことが広まってしまったせいかもしれません。
実際は、香害は、喘息患者、アレルギー患者、妊婦、抗がん剤治療者、感覚過敏の人や、無香料製品を使う生活で、嗅覚疲労を起こしていない人など、化学物質過敏症患者ではない人でも感じるものです。
先ほども述べたように、香害被害が高じたせいで、化学物質過敏症を発症するのであって、香害=化学物質過敏症ではありません。
そして、この化学物質過敏症の発症メカニズムについては、厚生労働省が、「中枢性感作症候群」の一つとして研究を進めていて、今はもう「不明」とは言えないでしょう。ごくごく簡単に説明すると、においや化学物質を感知したという刺激が、繰り返し末梢神経から中枢神経までも刺激することで、神経に変調をもたらしてしまうのではないかというものです。
バスタブに例えて、体内の化学物質の許容量を超えたことで発症するというのは、比喩です。化学物質の毒性が悪さをする中毒の側面ももちろんありますが、それよりも、化学物質の刺激で神経がまいってしまうことが、発症要因として考えられています。
ポケモンショックという事件を覚えている方もいるでしょう。ポケモンのアニメをTVで視ていた全国の子ども達が、目の前でピカピカする光刺激にさらされ、何百人もが気を失ってしまったという事件です。光が身体に入って毒になったわけではなくて、刺激だけで体に変調を及ぼしてしまうという一例です。
香害も同様で、においが鼻を刺激したり、化学物質がセンサーを刺激したりすることが大きな要因なのです。化学物質のセンサーが刺激を受けると、刺激が神経を伝わる途中の反応で、アレルギーと同様の物質を分泌するために、アレルギー症状が現れるようにもなります。
最後に、ごく最近の厚生労働省の研究をご紹介しておきます。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/163139
この中の坂部貢医師の研究論文によると、化学物質過敏症状を訴える人の症状出現の契機(要因)を調査した結果、「約70%の有訴者の契機が、柔軟剤、洗剤、除菌剤等に含まれる香料の香り(臭気)であることがわかった。」とあります。香害から化学物質過敏症を発症する人が多いことが示されています。
そして、結論としては、「個人及び集団における生活衛生上の対策を立てる上で、香料の使用は十分に考慮される必要性があると考えられた。」と記されています。
厚生労働省の研究で、香料の使用に関しては十分に考慮した方がいいだろうと結論づけたことは、大きな意味があると思います。